
インドには多種多様な宗教祭が存在しますが、その中でも特に、イスラム教徒にとって大切な意味を持つのが「マウリッド・ナビ(Milad un-Nabi)」、預言者ムハンマドの生誕を祝う日です。この日は、インド政府によって「ガゼットホリデー(公示休日)」に指定されています。地域によってその扱いが異なる場合がありますが、イスラム教徒コミュニティが信仰心と喜びを分かち合う、特別な祝祭の日です。
2025年、2026年、2027年のマウリッド・ナビの日程
- 2025年9月5日(金)
- 2026年8月26日(水)
- 2027年8月16日(月)
2025年のマウリッド・ナビは、9月5日(金)に予定されており、この時期にインドを訪れるなら、荘厳さと熱狂が共存するイスラム文化に触れることができるかもしれません。
インドにおけるイスラム教の豊かな歴史と存在感
インドは、世界で2番目に多くのイスラム教徒を抱える国です。人口は約14%、実に2億人以上に達します。その歴史は深く、インドの文化に大きな影響を与えてきました。特にムガル帝国時代には、タージ・マハルやデリーのジャーマー・マスジッドに代表される壮麗なイスラム建築、細密画や音楽といった芸術、そして豊かな食文化がインドに花開きました。
マウリッド・ナビは、こうしたインド独自のイスラム文化の継承であり、多様な信仰が共存する社会の象徴とも言えるかもしれません。

マウリッド・ナビとは?:預言者ムハンマドの生涯と教え
マウリッド・ナビは、イスラム教の創始者であり、最後の預言者とされるムハンマドの誕生日を祝う日です。彼の生涯はイスラム教徒の規範とされています。この日は、彼の教えや慈悲の精神を再確認し、感謝を捧げる大切な機会となります。
祝われ方は地域や宗派(スンニ派とシーア派)によって多少異なりますが、基本的な精神は共通しています。預言者への敬愛と、彼の誕生が人々にもたらした導きと希望を称えるのがこの祭りの本質です。
インドでのマウリッド・ナビの祝われ方:信仰、熱狂的な行進、そして慈善
祭りの日、インド各地のモスクや家庭では、特別な準備が行われます。イスラム教徒たちは、モスクに集まり、特別な礼拝を捧げたり、クルアーン(コーラン)の朗読を行ったり、預言者ムハンマドの生涯に関する講話に耳を傾けます。街中のモスクや家々は、華やかなライトで装飾され、祝祭ムードが高まります。
熱気あふれる「ジュルース」行列
特に都市部では、「ジュルース(Juloos)」と呼ばれる熱気あふれる宗教行列が行われます。人々は緑色の旗やバナーを持ち、聖歌を唱えながら通りを練り歩きます。このパレードは、預言者への敬意とコミュニティの連帯を示す、非常に活気に満ちた光景です。
慈愛と公正を重んじる慈善活動
また、マウリッド・ナビにおいて非常に重視されるのが、慈善活動(サダカ)です。ムハンマドの慈愛と公正を重んじる教えに則って、貧しい人々へ温かい食事や衣類、物資が振る舞われます。この行為は、社会の絆を深める行為です。
マウリッド・ナビ期間中に味わうインドのイスラム料理
マウリッド・ナビでは、慈善の精神と結びつき、イスラム教徒の家庭やコミュニティで美味しいハラール(Halal)料理が用意されます。そして、人々を招いたり、貧しい人々へ振る舞われたりします。この時期ならではの味と出会える貴重な体験となるでしょう。
代表的なハラール料理
- ビリヤニ(Biryani):骨付き肉や野菜と米をスパイスと一緒に炊き込んだ、香り高い炊き込みご飯。祝祭には欠かせない一品です。
- ハリーム(Haleem):小麦や大麦、肉、レンズ豆などを長時間煮込んだとろみのあるシチュー。栄養満点で心温まる料理です。
- ケバブ(Kebab):様々な種類の肉を使った焼料理。ジューシーで香ばしいケバブは、インドのイスラム圏で非常に人気があります。
- 甘いデザート:牛乳と極細麺、ナッツなどを煮込んだ甘いミルクプディング「シェール・クォルマ」や、甘いシロップに漬け込んだ揚げ菓子「グラブジャムン」なども振る舞われることがあります。
※イスラム教徒にとって「ハラール」とは、豚肉やアルコールを含まず、定められた方法で処理された肉などを指します。

マウリッド・ナビを体験する旅のヒント&おすすめスポット
マウリッド・ナビの時期にインドを訪れるなら、以下の都市やスポットがおすすめです。活気ある祝祭の雰囲気を肌で感じることができます。
主な祝賀都市と見どころ
- デリー(Delhi):インドの首都であり、ムガル帝国の栄華を伝える壮麗なジャーマー・マスジッドは必見です。この時期は特に飾り付けが美しく、多くの信者が集まります。フマユーン廟やクトゥブ・ミナールといった世界遺産も、イスラム文化の深さを感じさせます。
- ハイデラバード(Hyderabad):旧市街は特に祝賀ムードが高まり、象徴的なチャールミナー周辺やメッカ・マスジッドなどで賑やかな光景が見られます。
- ラクナウ(Lucknow):シーア派の文化が色濃く残る都市で、独特の祝賀行事が行われることがあります。美しいイマームバーラーなども訪れる価値があります。

イスラム圏を訪れる際の基本マナー
- 服装:モスクなどを訪れる際は、肩や膝を覆うなど、肌の露出を控えた敬意を払う服装を心がけましょう。多くの寺院やモスクでは靴を脱いで入りますので、着脱しやすい履物がおすすめです。
- 写真撮影:多くの場所で撮影は許可されていますが、信者の礼拝やプライバシーを尊重し、迷惑にならないよう配慮しましょう。念のため、撮影前に確認するのが良いでしょう。
- 混雑と交通:祝祭期間中は特にモスク周辺やパレードが行われる通りは大変混雑します。公共交通機関の利用や、余裕を持った移動を心がけてください。
まとめマウリッド・ナビが伝える平和と共生のメッセージ
マウリッド・ナビは、単なる預言者の誕生日祝いにとどまらず、預言者ムハンマドが説いた普遍的な価値を再確認する日です。
このお祭りに参加することは、インドの多様な文化、特にその中に深く根付いたイスラム文化の精神性を体験する機会となるはずです。華やかな装飾や響き渡る聖歌に彩られた祝祭の熱気や、人々の純粋な信仰心と助け合いの精神に触れたり、宗教行事を通じて多民族国家インドの懐の深さを旅人として実感できるかも知れません。マウリッド・ナビの聖なる喜びに満ちた空気の中で、きっとインドという国の新たな魅力を発見できるはずです。
