
2025年9月5日(金)シンガポールのムハンマド聖誕祭:多文化社会に息づく静かな信仰
多様な民族と文化が共存するシンガポールでは、預言者ムハンマドの生誕を祝う「ムハンマド聖誕祭(Maulidur Rasul)」が、イスラム教徒にとって大切な宗教行事として尊重されています。この日は国民の祝日ではありませんが、それぞれのモスクや家庭で、敬虔な祈りや宗教的な講話が静かに行われます。多民族国家シンガポールならではの、宗教間の調和を重んじる文化の中で、イスラム教徒の信仰がどのように息づいているのか、その静かで奥深い祝い方をご紹介します。
ムハンマド聖誕祭の日程
シンガポールのムハンマド聖誕祭(Maulidur Rasul)は、イスラム暦(ヒジュラ暦)に基づいているため、グレゴリオ暦では毎年日付が変動します。
- 2025年9月5日(金)
- 2026年8月26日(水)
- 2027年8月15日(日)
シンガポールのムハンマド聖誕祭(Maulidur Rasul)とは?
ムハンマド聖誕祭は、イスラム教の預言者ムハンマドの誕生日を祝う、イスラム教徒にとって大変重要な日です。シンガポールでは「Maulidur Rasul(マウリッドゥル・ラスール)」、または「Hari Raya Maulid(ハリ・ラヤ・マウリッド)」と呼ばれています。この日は、預言者の生涯と教えを深く省み、信仰心を新たにする貴重な機会です。
多民族国家シンガポールにおける祝い方の特徴と呼び方
シンガポールは、中国系、マレー系、インド系など多様な民族と宗教が共存する多文化社会です。そのため、国の方針として、特定の宗教行事が公共の場で過度に目立つことを避け、国民全体の調和を優先しています。
ムハンマド聖誕祭は現在、シンガポールの国民の祝日ではありません。これは1968年の祝日見直しにより、祝日の数が削減されたことに起因します。そのため、この日は会社や学校は通常通り営業・登校しており、一般的な商業施設も通常通り開いています。
その代わりに、ムハンマド聖誕祭の祝い方は、主にイスラム教徒の各コミュニティや家庭の内部で行われることが主となります。モスクでの集団礼拝や、預言者の生涯に関する講話(セラマッタン)、コーランの朗読会などが中心です。家庭では、家族が集まって食事を共にし、宗教的な教えについて語り合ったりします。この静かで個人的な祝い方は、シンガポールが誇る宗教的寛容性と多様性を尊重する姿勢を反映していると言えるでしょう。

また、このお祭りには、いくつかの呼び方があります。シンガポールでは、「Maulidur Rasul(マウリッドゥル・ラスール)」や「Hari Raya Maulid(ハリ・ラヤ・マウリッド)」が一般的で、これらはアラビア語で「使徒の誕生」を意味し、「使徒(預言者)の誕生祭」や「誕生日の大祭」を意味します。国際的には「Prophet Muhammad’s Birthday(預言者ムハンマドの誕生日)」という英語表現も広く使われます。
シンガポールでの祝い方と見どころ:信仰に触れる静かな一日
ムハンマド聖誕祭は国民の祝日ではないため、市街地で観光客の目を引くような大規模な行事は少ないですが、地元のイスラム教徒の信仰に触れる貴重な機会を提供します。特にマレー系ムスリムが多く住む文化地区では、その雰囲気をより深く感じることができるでしょう。
モスクが信仰の中心
この日、シンガポール各地のモスクは、いつも以上に多くの信者で賑わいます。特にイスラム教徒のコミュニティにとって重要な役割を果たすモスクでは、特別な礼拝や、イスラムの教えを深めるためのセラマッタン(宗教的な講話や集会)が頻繁に開催されます。預言者ムハンマドの生涯を振り返り、その教えを実践することの重要性が説かれ、信者たちは静かに耳を傾けます。こうしたモスクでの集会は、信者間の絆を深め、コミュニティの精神的な中心となります。
スルタン・モスク (Sultan Mosque)
アラブ・ストリートの中心にそびえる荘厳なスルタン・モスク(Sultan Mosque)は、シンガポールで最も有名なイスラム建築の一つです。その金色に輝くドームと美しい建築様式は、シンガポールの象徴的なランドマークとしても知られています。ムハンマド聖誕祭の期間中は、通常よりも多くの信者が礼拝に訪れ、厳かな雰囲気に包まれます。その美しい建築を眺めたり、周辺の歴史ある街並みを散策したりすることは、この特別な時期のシンガポールの信仰文化に触れる貴重な機会となるでしょう。
観光客向け通常開館時間:
- 月曜~木曜、土曜~日曜:午前10時~正午、午後2時~午後4時
- 金曜:午後2時30分~午後4時
- 避けるべき時間帯:金曜日の午前11時~午後2時頃(集団礼拝のため)、および各日の礼拝時間帯。
訪問前の確認:
ムハンマド聖誕祭のような祝日は、通常の開館時間が変更されたり、特別なイベントが開催されたりする場合があります。訪問前に、スルタン・モスクの公式サイト sultanmosque.sg で最新の開館時間やイベント情報を確認することをおすすめします。
- 最寄駅:ブギス駅(Bugis MRT Station)
- 市内中心部から:タクシー/配車アプリで約5〜10分
- 料金目安:約SGD 5〜10
アラブ・ストリートとゲイラン・セライでの文化的体験
シンガポールのマレー系文化地区であるアラブ・ストリート(Arab Street)やゲイラン・セライ(Geylang Serai)では、ムハンマド聖誕祭の時期でも、観光客向けの大規模なイベントはあまり期待できません。しかし、この時期だからこそ感じられる、普段とは少し違う厳かな雰囲気を体験できます。
- アラブ・ストリート:スルタン・モスクの周辺に広がるアラブ・ストリートは、マレー系文化の息づく歴史的な地区です。聖誕祭の期間中、モスク周辺のマレー系ショップや飲食店では、お祝いの飾り付けが施されたり、この時期に合わせた伝統菓子が並んだりすることもあるかもしれません。静かに街並みを散策し、地元の信仰心と文化に触れるのがおすすめです。
- ゲイラン・セライ:シンガポールのマレー系コミュニティの活気ある中心地の一つです。この地区のモスク(例:Khadijah Mosqueなど)でも、聖誕祭の期間中は宗教的な集会が増えます。ゲイラン・セライ・マーケットでは、普段からマレー系の食材や料理が豊富に手に入りますが、聖誕祭に特化した特別な市場やライトアップイベントなどは通常ありません。しかし、地元の人々の日常生活に溶け込んだ信仰の様子を垣間見ることができるでしょう。

- 最寄駅:パヤレバ駅(Paya Lebar MRT Station)またはユーノス駅(Eunos MRT Station)
- 市内中心部から:タクシー/配車アプリで約15〜20分
- 料金目安:約SGD 10〜15
これらの地域を訪れる際は、あくまで地元のコミュニティの信仰活動の場であることを理解し、静かに見守る姿勢が大切です。過度な観光客気分で騒いだりせず、彼らの文化や習慣に敬意を払って過ごしましょう。
ムハンマド聖誕祭を彩る料理とお菓子
ムハンマド聖誕祭の時期には、家族や親戚が集まり、伝統的なマレー料理を囲んで語らうのが一般的です。手間暇をかけて作られる、心のこもったご馳走の数々は、食卓を一層華やかに彩ります。
国民食「ナシレマ(Nasi Lemak)」
ココナッツミルクで炊いた香り高いご飯に、揚げピーナッツや揚げた小魚のイカンビリスなどを添えた、シンガポール国民に愛される一皿です。温かいココナッツの香りとピリッと甘辛いサンバルが食欲をそそる、絶品のソウルフードです。

ごちそう「ルンダン(Rendang)」
牛肉や鶏肉をココナッツミルクと様々なスパイスでじっくりと煮込んだ、濃厚で風味豊かな煮込み料理です。手間がかかるため、特別な日にしか味わえないご馳走として知られています。肉がとろけるほど柔らかく、家庭ごとに異なる秘伝のスパイス配合を楽しめるのも魅力です。

伝統的なお菓子「クエ」
シンガポールでは、マレーシア同様、伝統的なお菓子「クエ(Kue)」が豊富にあります。ムハンマド聖誕祭の時期にも、これらのお菓子が家庭で用意されたり、市場に並んだりします。

なかでも人気なのは、マレー系の伝統菓子オンデオンデ(Onde-Onde)。もちもちの緑色の生地(パンダンリーフで色付けと香り付け)で、黒糖の一種であるグラマラッカ(Gula Melaka)を包み、外側に細かく削ったココナッツをまぶしたものです。ひと口かじると、中から甘く濃厚な黒糖蜜がとろりと溢れ出し、ココナッツの香りと共に口いっぱいに広がります。
何層にも重ねて焼かれた色鮮やかなケーキクエ・ラピス(Kue Lapis)も、お祝いの席を華やかに彩る定番です。

文化体験のためのヒントと注意点
ムハンマド聖誕祭の時期にシンガポールを訪れる際は、この宗教行事が持つ文化的背景を理解することで、より深い体験ができます。旅程に大きな影響を与えることは少ないですが、イスラム教徒の信仰に触れる機会として、以下の点に留意すると良いでしょう。
- 宗教施設訪問時の服装とマナー:スルタン・モスクなど、宗教施設を訪れる際は、肌の露出を控えた服装を心がけましょう。肩や膝が隠れる服装が適切です。女性はスカーフの着用を求められる場合が多いので、持参するか、入り口で借りられるか確認しましょう。礼拝中の写真撮影は控え、静粛を保つことが重要です。フラッシュの使用も避けましょう。
- 地元の文化地区を散策:アラブ・ストリートやゲイラン・セライなどのマレー系文化地区を訪れる際は、地元の生活や信仰の雰囲気を尊重し、静かに散策しましょう。この時期ならではの伝統菓子や料理を提供する店を見つけられるかもしれません。
- 交通と混雑:祝日ではありませんが、モスク周辺やマレー系文化地区では、礼拝に訪れる人々で一時的に混み合う可能性もあります。
- 「ハラル」に配慮した食事:イスラム教徒の友人や知人と食事をする際は、ハラル認証のレストランを選ぶなど、宗教的な食事規定に配慮すると良いでしょう。
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