広大なインドには12億人を超える人たち生活しています。地域によって文化も言葉も宗教も様々です。
そのため、一口にインド料理と言っても、地域や民族、あるいは宗教などによって多種多様なインド料理があります。
インド料理は、強いて言うなら非常に多彩なスパイスを使うことを特徴とした料理です。
北インド料理と南インド料理
インド料理は、大きく北インド料理と南インド料理に分けられます。さらに、北インド料理と南インド料理とも、それぞれ菜食料理(ヴェジ)と非菜食料理(ノンヴェジ)に分けるのが一般的です。
因みに、カレー粉を使った料理は、本場のインド料理とはかなり異なります。
北インド料理の特徴
北インド料理のルーツは、イスラム文化圏の影響を色濃く受けた16世紀ムガール帝国の宮廷料理と、もとから北インドにあった食文化の融合にあると言われています。
北インド料理の主食は、小麦を材料としたナンやチャパティ、ロティなどのパン類です。
ちなみに、日本のインド料理レストランではナンが一般的ですが、インドでは高級食材の部類に入ります。インドでは、一般的には小麦の全粒粉を用いた無発酵のチャパティやロティがよく食されています。
また、牛乳やダヒー(ヨーグルト)、パニール(チーズ)、ギー(澄ましバター)など、多くの乳製品を多く使うことが特徴です。そのため、こってりとした料理が多いです。また、タンドリーチキンも、代表的な北インド料理です。
スパイスとしては、クミン、コリアンダー、シナモン、カルダモンなどがよく使われます。
もちろん、米料理もあります。特に香りが良いバースマティー種の米は好まれますが、これはムスリム(イスラム教徒)の影響が指摘されています。
ところで、海外に展開しているインド料理レストランの多くは、北インド料理中心です。日本にあるインド料理レストランの多くも北インド料理が中心です。
北インド料理に欠かせないガラムマサラ(Garam Masala)とは
マサラとは、様々なスパイス(香辛料)を粉状にした物を混ぜ合わせミックス・スパイスのことです。
一口にマサラと言っても、カルダモン・マサラ、コリアンダー・マサラ、チャナ(ヒヨコマメ)・マサラ、チャト・マサラなどなど、沢山の種類があります。
ガラムマサラは、数多くあるマサラのうち、最も代表的なマサラです。
基本的なガラムマサラは、シナモン(肉桂、桂皮)、クローブ(丁字)、ナツメグ(肉荳蒄)の3つのスパイスを使います。
とは言うものの、決まったレシピがある訳ではなく、カルダモン、胡椒、クミンなどが加えたり、ナツメグの代わりにメースを使うなど、様々な組み合わせがあります。
一般的にインドでは、家庭ごとにスパイス(香辛料)の混ぜ具合が微妙に異なるため、「家庭の味」「おふくろの味」といったニュアンスを持っています。
作り方は、カルダモン、胡椒、クミンなどの乾燥したスパイス(香辛料)を、粒や塊のままフライパンなどで空煎りした後、砕いて粉にすると完成です。
ガラムマサラは味付けもさることながら、香りが命とされています。そのため、出来立てを使いますが、密閉した瓶に保存しておけば、数カ月持ちます。
非常に多くのインド料理は、ガラムマサラを初めとするマサラが使われています。
ちなみに、日本で使われているカレー粉は、インドにはありません。このカレー粉は、インド料理に魅せられた旧宗主国のイギリス人が、インド料理を即席に作るために、独自に考案したものです。強いていえば、ガラムマサラのインスタント版といったところでしょうか。
また、よく指摘される事柄ですが、もともとインドにはカレーという料理もありません。西洋人が、インド人たちの料理を「カレー」(curry)と呼んだことから、それが転じて香辛料を使った汁物・煮込み料理を指す言葉として英語表記で「カレー」(curry)という言葉が世界中で使われるようになった経緯があります。
南インド料理の特徴
南インド料理は、インド半島の南部4州(カルナータカ州、アーンドラ・プラディーシュ州、ケララ州、タミル・ナードゥ州)を中心とした地域で食べられている料理です。
南インドは、北インドに比べて菜食主義者(ヴェジタリアン)が多く、肉類の代わりに、野菜を中心とした料理や魚を使った料理が多いことが一つの特徴です。
北インド料理と南インド料理の違いの背景には、気候の違いが挙げられます。南インドは北インドより気温が5度~8度ほど高い地域です。
そのため、南インドでは、過酷な暑さの中でも食欲を促すため、北インドよりあっさりした、酸味や辛味の強い味付けが特徴です。
また、インド南部は、世界有数の稲作地帯だけあって、お米が主食です。南インドでは実に様々な種類のお米が販売されています。
北インドのお米は、長粒種のインディカ種ですが、南インドでは、見た目が日本の米(ジャポニカ種)に近い丸い形状のものです。
とはいえ、日本のお米のような粘り気なく、インディカ種の米と同じように、比較的パサパサ状態です。
北インド料理に多く見られる乳製品の代わりに、南インドでは、ココナッツミルクをに使った料理が多くあります。サラダや炒め物などにもココナッツをふんだんに使います。
また、北インドでよく使うギーよりも、からしや胡麻の油が多く使われます。
使われるスパイスも、北インド料理とは異なります。南インド料理では、レッドペッパーやカレーリーフ、酸味のあるタマリンドをよく使います。タマリンドは過酷な環境でも育つ強い植物として知られています。
北インド料理でクミンを使う場面では、南インドでは黒からしの種やカレーリーフを使ったりします。
北インド料理に欠かせないガラムマサラも使いません。
北インド料理では、金属のお皿に料理を盛りつけた状態で供されますが、南インドの正餐では、清めたバナナの葉に盛られて出てきます。
代表的な南インド料理
代表的な南インド料理としては、「ミールス」が挙げられます。ミールスとは、南インドで食べられいるベジ(菜食)料理を中心とした定食です。
お皿代わりのバナナの葉の上に、スープ、カレー、お米、炒めもの、漬物などの料理を、金属製の丸い小さな器:カトリに盛りつけて提供されます。
ミールスには、様々な組み合わせがありますが、代表的な組み合わせとしては、豆と野菜を煮込んだサンバルをはじめ、辛酸っぱいスープのラッサム、豆カレーのダール、南インド風野菜炒めのポリヤル、さらにヨーグルトやインドの漬物であるアチャールなどを、ライスや、豆をすりつぶして作ったお煎餅のようなパパドと一緒に頂きます。
菜食料理(ヴェジ)の特徴
ヒンドゥー教の上位カーストの者やジャイナ教徒は、宗教的な戒律上、肉を食べません。
そのため、インドでは菜食料理(ヴェジ)が古くから発達してきたと言われています。
菜食主義者(ヴェジタリアン)は、動物の肉、および動物から原料としている脂、ゼラチンまで一切、食べません。卵も食べません。
肉類などに代わって、菜食料理(ヴェジ)では、様々な種類の豆、穀物、ナッツなどが多く使われます。
ギー、ダヒー、パニールなどの乳製品が好まれるのは、こうした食材が、動物を殺生しないで得ることができるためです。
なお、「菜食」という言葉のイメージから、日本では質素でつましい料理を想像しがちですが、インドの菜食料理(ヴェジ)は、非常に豪華かつ多彩な食文化を形作っています。
インドを訪れると、街のレストランでは、「ヴェジ」と「ノンヴェジ」の席はハッキリと分けられており、両者が一緒に食べることはありません。
また、一口に菜食主義者(ヴェジタリアン)と言っても、ジャイナ教徒の敬虔な信者は、肉類は言うに及ばず、たとえ植物であっても、ニンジン、ダイコン、ニンニク、タマネギ、芋などの「根」の部分は、一切口にしません。葉、茎、豆だけを食べます。植物さえも殺生することを避けるという宗教的な理由によるものです。
非菜食料理(ノンヴェジ)の特徴
非菜食料理(ノンヴェジ)とは言っても、ヒンドゥー教徒は牛を神聖なものとしているため、一切、食べません。
ただし、インド南部の港町ゴアなどのように、キリスト教徒の多い地域では、豚や牛が食されることもあります。
一方、イスラム教徒(ムスリム)は、豚を不浄なものと考えるため、一切、豚を食べません。
こうした事情から、インドの非菜食料理(ノンヴェジ)は、主に鶏肉、羊肉、山羊肉、魚介類などが使われます。
中でもチキンは高級品の部類に入り、マトンはムスリム料理として広く食されています。
また、北インドと南インドでは調理の仕方がかなり異なるため、非菜食料理(ノンヴェジ)も非常に多彩な料理があります。
各地方で特色の異なるインド料理
インド料理は、ざっくり北インド料理と南インド料理に分けることができますが、さらに地方ごとに特徴があります。
例えば、河川が多い東インドでは、魚を使った料理が多いことが特徴です。主食はお米で、マスタードオイルがよく使われます。
また、大都市・ムンバイがある西インドは、パンとお米の両方が主食です。ベジタリアンの多いことが特徴で、野菜や豆を使った、あっさりとした料理が主流です。
食事マナーに見る「浄」の考え
インドの伝統的な食事マナーとしては、基本的にスプーンやフォークなどは使わず、右手で直接パン類をちぎって汁物に浸したり、御飯を汁と混ぜて口に運んで食べます。
その際、親指、人差し指、中指の3本の指の第二関節までを使います。そして、親指の爪がある部分で、食べ物をプッシュするように口の中に入れます。
これには、ちょっとコツと慣れが必要ですが、慣れると上品に食べることができます。
ただし、都市部では、欧米風に、スプーンやナイフを使う姿もよく見られます。
食事を取る際、右手のみを使うことには理由があります。インドでは、右手は「浄」、左手は「不浄」という考え方があるためです。
左手はトイレで用を足すために使われる「不浄の手」と考えられているからです。そこで、食事中に、直接料理に触れる指は右手のみです。
こうした「浄」「不浄」の考え方は、料理文化全般にも影響しています。例えば、インド料理に、揚げたり、炒めたりする料理が多い理由は、油で調理することにより、「浄化」するという考えが背景にあると指摘されています。
食器類に金属製のものが好まれる理由も、土からできた磁器、陶器よりもの方が、より「浄」であるとの考えられているためです。
また、他人が口をつけたものも不浄とされます。旅行や出張などでインドへ行く場合は、気をつけておきましょう。
右手だけで食べることに抵抗がある方は、スプーンで食べてもOKです。「マイ・スプーン」を携帯しておきましょう。
代表的なインド料理
以下、代表的なインド料理を紹介します。
パン類
- チャパティー(アーター)
- 小麦の全粒粉から作られる、茶色く、平たい形状をした無発酵の薄焼きパンです。北インドでは最もポピュラーな主食となっています。
- プーリー
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チャパティーを油で揚げたもので、揚げたては風船のように大きく膨らんでいます。
- ナン / Naan
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醗酵させた小麦粉の生地を、木の葉の形状に焼いたパンです。正式には、タンドゥールと呼ばれる窯で焼きますが、オーブンで焼くこともあります。
- ロティー
- ロティーは、インドのパン類の総称です。ナンと同じ生地を円盤状に焼いたものをロティーと呼ぶこともあります。地域によって、様々な種類のパンを指します。
- パラーター(パロータ/パラタ)
- チャパティーの生地に油を練り込み、パイ生地のようにして焼いたパンです。
料理
- ムルグ(チキン)マカニ(バターチキンカレー) / Chicken Makhani (Butter Chicken)
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クリーミーでコクのあるチキンカレーで、北インドの代表的料理の一つです。新鮮なトマト、ニンニク、カルダモンを煮詰めてトマトピューレとバター、そして様々なスパイスを加えて料理します。
- タンドゥーリ・チキン(タンドゥーリ・ムルグ / Tandoori Chicken)
- スパイス、ヨーグルト、塩などで作ったタレに付けておいた鶏肉を、タンドゥールと呼ばれる釜で焼いた鶏料理です。よくミント風味ヨーグルトと玉葱スライスを添えて出され付けに出されます。非常に香ばしい、北インド料理の代表的な一品です。
- シーク・カバーブ
- 羊肉料理です。
- アチャール
- 青マンゴー、ジャックフルーツ、レモンなどをスパイスした上で、油などで日干しし漬け込んだピクルスです。
- チャトゥニー / Chutney
- 果物やハーブ類から作るソース状の調味料です。
- サンバル
- スパイスと一緒に、キマメと様々な野菜を煮込んだものです。日本で言えば、味噌汁のようなもので、南インドでよく食されています。
- ラッサム
- 辛味と酸味の効いたトマトベースのスープです。南インド料理の一つです。
- チャーワル
- 白米御飯のことです。インドのお米は粘り気が少ない品種を、茹でこぼして調理するため、とてもあっさりした食感です。
- プラーオ
- 味付けをした御飯です。白米と同じく、汁や炒め物と混ぜて食べます。ちなみに、プラーオとピラフと同語源の言葉です。
- ビリヤーニー / Biryani
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日本で言うこところの、炊き込み御飯です。汁と混ぜずに、ビリヤーニーだけ頂くこともあります。ちょうど日本の赤飯のように、お祝いごとをする時に頂く料理です。インドでは、ナッツ、ドライフルーツ、着色料、バラの花弁、ヴァルクと呼ばれる食用の金箔・銀箔で、このビリヤーニーを美しく飾り立てている食事風景を見ることができます。
スナック類
- サモサ / Samosas
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野菜を炒めて煮こんだものを小麦粉の皮で三角に包み、揚げたものです。北インドの代表的なスナックです。
- パコーラー
- スパイスと塩で味をつけた衣を野菜の具に、ひよこ豆の粉を水で溶かしたものにからめて揚げた料理です。言ってみればインドの天ぷら料理です。こちらも北インドでよく見かけます。
- ドーサ
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アズキと米粉を水で溶いたものを醗酵させた上で、鉄板でクレープ状に薄く焼いたものです。南インドの代表的なスナックの一つです。野菜のスパイス炒めを巻いたものはマサラ・ドーサと呼ばれます。
- イドゥリー
- アズキと米粉から作った蒸しパンです。南インドのスナックです。
飲み物
- ラッスィー(ラッシー) / Lassi
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インドでダヒと呼ばれるヨーグルトをベースにした飲物です。
- チャーイ / Chai
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インド式紅茶。インドでは、茶葉を煮出して作るミルクティーが一般的です。
- マサーラー・チャーイ / Masala Chai
- 各種スパイスを加えたチャーイです。
- インディアン・コーヒー
- 南インドで好まれているインド風のカフェ・オレ・コーヒーです。北インドではチャーイが一般的ですが、南インドでは、コーヒーも好まれています。