
クメール語で「お盆(プチュム)」と「ご飯(バン)」を意味するプチュン・バンは、カンボジアにとってクメール正月に次いで重要な国民的祝日です。上座部仏教の死者供養の教義に基づくものであり、カンボジア仏教文化において最も重要な年中行事のひとつです。行事は15日間にもわたり、供養の最終日を含む最後の3日間が国の祝日となっています。
この期間中、人々は故郷へ帰り、家族や親族が一堂に会します。寺院の境内は供物を持ち寄る人々の熱気で活気に満ち、家々では久々の再会を喜ぶ声が響き渡ります。国全体が温かく、慈愛に満ちた空気に包まれるのです。信仰と家族の絆が深く結びつく、この国の特別な風景を紐解いていきましょう。

2025年、2026年、2027年のプチュン・バンの日程
- 2025年9月21日(日)~9月23日(火)
- ※2026年10月10日(土)~10月12日(月)
- ※2027年9月27日(月)~9月29日(水)
プチュン・バンは旧暦に基づいて日付が決まるため、毎年日程が変動します。2025年の日程は上記の通り確定していますが、2026年・2027年の日付は参考情報です。
起源は仏教の教えから
プチュン・バンの起源は、仏教の経典『盂蘭盆経(うらぼんぎょう)』にあります。この経典に記された、釈迦の弟子である目連尊者が、餓鬼道に堕ちて苦しむ母を救うために修行僧に供養を捧げたという物語は、日本のお盆行事と共通のルーツを持っています。
「プレタ」とは何か
カンボジアのプチュン・バンは、特に「プレタ」と呼ばれる霊の供養に重きを置いています。プレタとは、仏教の経典に用いられるパーリ語が語源で、カンボジアでも同様に発音される言葉です。
上座部仏教では、プレタは生前の罪によって常に飢えと渇きに苦しむ存在とされています。この時期、地獄の門が開き、プレタが地上に戻ってくると信じられています。
人々は、先祖だけでなく、縁のない無縁仏や、すべての苦しむ霊を救済しようと心を込めて供養するのです。カンボジア仏教の深く広い慈悲の心を象徴しているといえるでしょう。
15日間にわたる供養の期間
プチュン・バンは、正確にはクメール暦の10番目の月の新月から満月までの15日間を指します。この15日間は「カンダール・ベン」と呼ばれる期間で、カンボジアの人々は先祖の魂を供養するため毎日、夜明けとともに寺院(ワット)へ向かい、心を込めて供物を捧げます。

この15日間の供養期間のうち、最終日を含む3日間が、「プチュン・ベン・トム(大プチュン・バン)」と呼ばれ、国民の祝日として定められています。多くのカンボジア人は故郷に帰省し、行事が最高潮に達します。この時期、カンボジアの街は静かになりますが、故郷の村々では家族が集まり、賑やかで温かい空気に包まれます。

特別な料理:もち米のおにぎり「バイト・ベン」とお団子
この時期に捧げられる特別な料理として、ココナッツミルクとターメリックで炊いたもち米のおにぎり「バイト・ベン」が知られています。これらはバナナの葉で包んで供えられ、プチュン・バンの象徴的な光景となります。
また、もち米で作られた特別な「お団子」を投げるユニークな儀式も行われます。これらの供養のための料理は、僧侶に捧げられた後、自分たちで食べることはありません。供養の儀式が終わった後、家族は別途用意されたご馳走を囲み、再会を喜び合うのです。

旅のヒント:プチュン・バンを体験する旅
プチュン・バンの時期にカンボジアを訪れるなら、この国の文化や信仰を肌で感じられる貴重な体験ができるでしょう。特にプノンペン市内では、寺院ごとに異なる賑わいを見ることができます。観光客もマナーを守れば見学できますので、ぜひ訪れてみてください。
【おすすめの寺院】
- ワット・プノン(Wat Phnom): プノンペン市内中心部にある由緒ある寺院です。プチュン・バンの時期には多くの地元の人々が訪れ、供物を捧げる姿を間近で見ることができます。
- ワット・ウナロム(Wat Ounalom): カンボジア仏教の二大宗派の一つ、モハニカイ派の総本山として知られる寺院です。期間中には、僧侶や参拝者が集まる厳粛な儀式が執り行われ、この国の仏教文化の深さを感じられるでしょう。
この時期の旅行を計画する際は、以下の点に注意してください。
- 交通機関の混雑と高騰: 祝日期間中は、多くのカンボジア人が帰省するため、バスや飛行機が大変混み合います。移動を予定している場合は、早めの手配を心がけましょう。
- 店舗の休業: 個人の商店や一部のレストランは休業する場合があります。
- 寺院でのマナー: 寺院を訪れる際は、肌の露出を避け、おごそかな雰囲気を尊重しましょう。
- 気候: プチュン・バンの時期は雨季の終わり頃にあたります。朝晩の気温差に備え、薄手の長袖を用意するなど服装の調整をしましょう。
